研究内容

概要

物性設計という挑戦に挑むためには、現存する物質の性質を深く理解することが不可欠です。また、同時に現在の数値手法をさらに改善していく必要があります。そのため、本研究室では手法開発と物質への適用を繰り返しながら、数値・理論手法を常に最先端なものにアップデートしています。これらの手法を駆使して、グランドチャレンジ達成に向けて一歩ずつ進んでいます。

研究内容の一端は
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研究対象

強相関電子系と呼ばれる量子多体性が最も顕著に現れる物質群を主に対象としています。

キーワード:量子多体問題、電子相関、量子もつれ、超伝導、磁性、量子スピン液体、幾何学的フラストレーション、非フェルミ液体、ベリー位相、異常ホール効果、ディラック・ワイル物理、ワニエ関数、フォノン、電子格子相互作用、繰り込み、量子臨界、ダウンフォールディング、低エネルギー有効ハミルトニアン、マテリアルズデザイン、バンドエンジニアリング、...

研究手法

第一原理計算・量子多体論・機械学習・量子計算を歯車にした新たなマテリアルズサイエンスのフレームワークを模索しています。

手法・アルゴリズム開発

第一原理計算

物性設計という挑戦に挑むためには、非経験的な第一原理手法が欠かせません。密度汎関数理論をベースとして、最局在ワニエ手法、ダウンフォールディング手法の開発を行っています。

関連する成果:Phys. Rev. B 92, 245108 (2015), J. Phys.: Condens. Matter 32, 165902 (2020), Comput. Phys. Commun. 261, 107781 (2021), ・・・

量子多体論

現実物質は、量子力学の法則に従う電子が相互作用しあう量子多体系です。難問として知られている量子多体問題をより正確に解くことのできる数値手法開発を目指しています。例えば、動的平均場理論の多軌道クラスター拡張、D-TRILEX法の開発、変分モンテカルロ法の高度化などが挙げられます。

関連する成果Phys. Rev. B 89, 195146 (2014), Phys. Rev. Lett. 127, 207205 (2021), ・・・

人工ニューラルネットワーク/機械学習手法

機械学習で用いられる人工ニューラルネットワークは柔軟な関数表現能力があります。その長所を生かして、量子多体系の量子もつれの本質を学習し、正確に量子状態を表現する手法の開発を行っています。また、機械学習のホワイトボックス化による非自明な物理洞察抽出も目指したいと思っています。

関連する成果:Phys. Rev. B 96, 205152 (2017) , Nat. Commun. 9, 5322 (2018), Phys. Rev. Lett. 127, 060601 (2021), ・・・

手法適用

物性設計達成のためには、現存物質に対して、理論予測と実験の観測結果を詳細に照らし合わせ、そのギャップを埋めていく必要があります。これまでの事例をいくつか紹介します。

フラーレン超伝導体の相図の定量再現

フラーレンはその美しい形が魅力的な分子です。フラーレン分子が集まって固体を組み、電荷をドープすると驚くべきことに超伝導が発現することが知られています。最先端の第一原理計算により、このフラーレン超伝導体のモット絶縁体と超伝導を含む相図の定量再現に成功し、その超伝導機構を解明しました。超伝導発現に電子相関が絡む非従来型超伝導体において、ここまでの精度で実験相図を再現した例はなく、手法開発の面からも新超伝導体の物質設計の可能性を開く成果となりました。

関連する成果:Sci. Adv. 1, e1500568 (2015), J. Phys.: Condens. Matter 28, 153001 (2016), ・・・

物理の難問「量子スピン液体」の確証・性質解明

量子スピン通しが特殊な量子もつれを起こすことにより、絶対零度でもスピンの秩序(スピンの"固体")が"融解"してしまうスピンの液体状態(量子スピン液体)が実現する可能性があります。量子計算への応用も期待され、非常に注目を集めている量子スピン液体ですが、物理の難問として知られ、その実現可能性や性質はよくわかっていません。人工ニューラルネットワーク手法を用いた世界最高精度レベルの計算を適用することにより、量子スピン液体の存在を確証し、その性質に迫りました。実験による検証が待たれます。

関連する成果:Phys. Rev. X 11, 031034 (2021), ・・・

ニッケル超伝導体のマテリアルズデザイン

2019年に発見されたニッケル酸化物における超伝導は、銅酸化物との類似が期待され、高温超伝導体の超伝導機構を解明する絶好の機会を与えてくれています。第一原理的手法を用いて、ニッケル酸化物と銅酸化物の比較を詳細に行い、その知見をもとに、ニッケル酸化物を用いた銅酸化物類似物質の理論提案を行いました。実験家の方が合成してくださるのを期待しています。

関連する成果:Phys. Rev. B 100, 205138 (2019), Phys. Rev. B 101, 075107 (2020), Phys. Rev. Research 2, 043144 (2020), ・・・

多軌道強相関系における非フェルミ液体的異常金属の発見

多軌道クラスター拡張した最新鋭の動的平均場計算を用いることによって、多軌道強相関系において非自明な異常金属状態があることを突き止めました。磁性の長距離秩序が存在しないのにフェルミ面の形状が変化するという発見はこれまでの金属状態の概念の常識とは異なるものです。実験による検証が待たれます。

関連する成果:Phys. Rev. B 91, 235107 (2015), Phys. Rev. Lett. 128, 206401 (2022), ・・・